真夜中。
わたしはなんとなく隣にいる妻の手を握っている。
冷たいな、などと思いながら細い指先を軽く揉んでいると、
突然妻がむくりと起き上がり、わたしにすがりつくと泣きながら言った。
「あなた、助けて。オリオン座から電波が飛んできて私を殺そうとするの」
あまりのことに一瞬私は驚き言葉を失った。
しかし、即座に何が起こったか理解した。
狂ってしまったのである。社会生活を送るストレス、生活への不安。
そうしたもののせいで、精神を壊してしまったのだ。
この世にありえない幻覚を見ているのである。
泣きじゃくる妻をなだめながら、わたしはしかし冷静だった。
今必要なものは、治療だ。病院である。これは異常事態であり、
こういう状態を放置していいはずがない。
翌朝、幸い休日だったので、仕事にいく必要はなかった。
わたしは妻を抱き上げて衣装を取替え、部屋の座椅子に座らせると、
電話で精神科の予約をとった。
 死んだ妻(もしくは人形)が起き上がったので
自分は狂ったと思ったのである。