この山の崖は景色が良くてちょっとした名所。
展望台に出ると風が気持ちいい。
先には望遠鏡が設置されている。
自分の家はあっちの方角かな、なんて考えながら近づくと同じタイミングで一人の男が近づいてきた。
「あ、お先にどうぞ」
『ありがとうございます』
男は身を投げた。
あの時譲らなければよかった。
全身に痛みを感じながら俺は後悔している。
そこは自殺の名所でもあった。俺もそれでここに来たのだ。
もう一人の男も同じ目的だろう、顔を見た瞬間ピンときた。
「あ、お先にどうぞ」
最後の最期に人に親切にしておくのも悪くない。そう思ったのだ。
だが、それが失敗だった。先に飛び降りた男の死体がクッションになり、助かってしまった。
身体が痛む。夥しい量の血に意識が遠くなるが、激しい痛みに引き戻される。助かりはしないだろう。
死に損なった。きちんと死ねるまでにどれくらいかかるだろうか。どれだけの痛みを感じなければならないのか。
譲るんじゃなかった。自分の下敷きになって死んでいる男を恨みがましく見つめながら、死ぬほど後悔した。